妻が近くのギャラリーショップで購入して間がないマグカップを誤って床に落としてしまい、持ち手の所が割れてしまいました~。
このマグカップ、地元の陶芸家さんが手作りされた一品ものなので、同じものがありません。
妻もたいそう気に入っていたので、がっかりしていたのを見て、初めての陶器修理にチャレンジすることにしました。
まずは、Youtubeで陶器修理をしている動画がないかを”陶器 修理”で検索したら、おぉ~出てくる出てくる。\(^▽^)/
とりあず順番に50件ほど見ていくと、食器の修理方法としては”金継ぎ”と呼ばれている日本古来の伝統的修理方法が圧倒的に多かったですね。
【”金継ぎ”とは】
日本の伝統的な陶磁器の修復技術で、破損した陶器や磁器を漆を使って接着し、その接合部の表面に金や銀をあしらって美しく修復する技法。
漆を使って物を塗装したり接合する歴史は古く、青森県の「三内丸山遺跡」など縄文時代の遺跡から出土した土器などにも見られます。
そして金継ぎという形式が見られるようになったのは、茶の湯が盛んであった室町時代にさかのぼります。
当時は、高価で貴重な茶器が壊れてしまった時の修復にこの技術が多用されました。
金継ぎは、修復品が傷物として価値が下がるべきところを、なおした傷の部分を個性として捉え、その部分に金や銀などの装飾を施して、新たに唯一無二のすばらしい芸術品として生まれ変わります。
この金継ぎという修理方法は、「物を大切にする心に加え、物に生じた傷を隠すのではなく、むしろその傷を美として昇華させる」という日本の美意識が反映された文化なんですね。
【現代における金継ぎにおける接着方法の種類】
金継ぎの代表的な接着方法は、以下の3種類です。
接着方法 | 内容 | 特徴 |
---|---|---|
伝統的金継ぎ |
接着に天然漆を使用。 天然漆は、漆に小麦粉や木粉、砥の粉を混ぜて接着剤やパテ、ヒビ埋めなどに使うペーストとしても使います。
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仕上がりの艶がよく、耐久性も良い。 その反面、仕上がるまでの時間が、最低数週間からと長い。 また、花瓶など長時間、水との接触があるものや土鍋など、高熱にさらされるものには使えない。 電子レンジ、食洗器での使用は原則的に不可。 |
簡漆金継ぎ | 接着に合成樹脂接着剤を使う。 その上に天然漆を塗り、金粉等装飾材を捲く。 |
基本的に伝統的金継ぎと同じであるが、接着工程の時間が短くなるので、仕上がりまでの時間が伝統的金継ぎより短い。 食器など直接、食品を入れるものを金継ぎする場合、食品衛生法に適合した合成樹脂接着剤を選定する。 |
簡易金継ぎ | 接着に合成接着剤を使用、塗りに合成漆又は、陶器用絵具等を使用。 |
室温20℃以上の環境で3,4日程度で仕上がり、DIYでもチャレンジしやすい。ただし、食品衛生法にクリアした合成接着剤は、非常に少ないので、食品が触れない部分の金継ぎ、又は、食品食器以外の金継ぎをする場合にのみお奨めする。 また、装飾塗料選びは電子レンジ、食洗器で使用できないものがあるので、補修品を日用使いでこれらの機器を使用する場合は、注意が必要。 |
【なぜ、伝統的金継ぎは、時間がかかる?】
とにかく漆が乾きにくい~!
乾き方は、温度、湿度に敏感。
塗った漆全体が完全硬化に至る条件は、温度が20℃~25℃、湿度が70%~85%。
この条件下で乾燥を進めさせるため、乾かす際は、外見は昔の水屋たんすのような”風呂”とか”漆室”と呼ばれる木製の乾燥ボックスの中に保管します。
こんな感じです。
漆を塗った作品を保管する際は、事前に風呂の中をタオルで水拭きし、中に濡れタオルをぶら下げて湿度を保たせますが、今は電子制御空調付きの漆室もあります。
この湿度の調整が特に難しく、毎日の気候を鑑みながら微妙に風呂の内部の湿り具合を調整します。
さらに調整具合は、漆の種類、塗った厚さによっても微妙に異なり、失敗するとひび割れやしわとなってしまいます。まさに職人技ですね。
【金継ぎに使う金もいろいろ】
漆が乾いた後は、いよいよ接着ヵ所の上に金を施していくのですが、この金にも種類が5つもあるんです。
種類 | 内容 |
---|---|
消し粉 |
金を圧延して作った金箔を粉にしたもの。 厚さは、約0.3μ。 金箔は、圧延しやすくするために微量の銀や銅が加えられています。その割合で金の割合が高い順に24K(純金)、五毛色、1号色、2号色、3号色、4号色、三歩色、定色の7種類があります。金箔は一般的には、4号色が使われています。 |
平極粉 |
地金をヤスリで削った粉を、さらに細かくしたもの。 厚さは、約0.6μ。 |
丸粉 | 地金をヤスリで削った粉を、丸く加工したもの。さらに1号(直径約6μ)から15号(直径約0.1mm)の大きさがある。 |
平目粉 | 地金をヤスリで削った粉を、厚さや形を整えたもの。 厚さは、1号(約60μ)から13号(約3mm) |
梨地粉 | 平目粉をさらに薄く圧延したもの。 厚さは、約2μから3μ。周囲がギザギザで、仕上がりがラメ状に見える。 |
さらに、金継ぎ用の金粉を卸しているお店は、東京と金沢にあり、同じ種類の金粉でも微妙に光加減に違いがみられます。
※参照元:金継ぎについての説明は、以前に妻と石川県の輪島に出向き、輪島塗の椀を工房で作った際、職人さんの方から教えていただいた内容です。(その工房は、今年の地震被災で全壊してしまいました)
ちなみに当時作ったお椀がこれです。
これは、金継ぎではなく蒔絵ですが、使用している金粉等は、金継ぎでも使う消粉です。完成まで約1カ月かかりました。
このお椀、20年以上毎日使っていますが、当時のままのおもむきで健在です。
輪島の再興を心から願っています。
漆は、お椀や箸などにニスのように塗るだけのものかと思っていましたが、接着剤としても昔から使われていたんですね。
最初は、古からの金継ぎ文化に大いに共感をするところがあったので、伝統的金継ぎにトライしようかと思いました。
が・・・。
全て天然漆で仕上げていくのは、作業場所の温湿度条件が厳しいためと、費用的にも本物の純金や本漆はやっぱり高い。
ということで今回は、簡易金継ぎでマグカップ再生にチャレンジすることに決めました。
まずは、ボンドと塗料を購入!
用意する材料は、接着材(ボンド)と修理跡のヒビの上を塗る塗料だけ。
破損個所が粉々になった部分がある場合は、パテも必要になりますが、今回は幸運にも割れて欠けたところもすべて接着できる大きさのかけらだったのでパテは不要でした。
道具としては、自宅にあるもの4つ。
・ヒートガン(初期乾燥用)
・竹串1本(接着時にはみ出た不要ボンド除去用)
・シリカゲル(ボンド本乾燥に使用)
・ポリ袋(ボンド本乾燥に使用、マグカップが入る大きさのジップロック1枚)
ネット記事やYoutubeでは、アメリカ製のタイトボンド3を簡易金継ぎに使っているDIYものが多く見られますね。
タイトボンド3は、木工用ボンドなのですが、amazonの商品の用途欄に”陶磁器”の記載があります。
安全面でも無溶剤で米国FDA(アメリカ食品医薬局)の認可を取得しています。
さらに、耐水性を謳っている商品なので食器類の簡易金継ぎに使っている方が多いのだと思います。
木工用ボンドという所がちょっと気になりましたが、とりあえずこれをamazonで購入。
金色塗料は、pebeoのポーセレン150 007という陶器用アクリル絵の具が食器補修の動画で紹介されていたので、これもアマゾンで購入しました。(フランス製)
マグカップの修復開始
1.破損個所にタイトボンド3塗布
早速ボンドを着けようとしたところ、ボンドの出し方がわからず、ちょっともたつきました。
結局、容器の口を引っ張り上げてボンド塗布をする構造でした。
ボンド容器の口に付いている半透明部分は取り外し仕様のキャップではなく、使用時は上に引っ張り、使用しない時は下に押します。
使用しない時
使用する時
半透明キャップが少し上に上がり、ボンドがを出すことができます。
タイトボンド3の使い方について気を付けることが一つあります。
タイトボンド3は、接着する面にボンドを塗ってすぐに貼り合わせるタイプのボンドではありません。オープンタイムと呼ばれている接着材塗布後の接着前待機時間が必要です。
メーカー公表の具体的なオープンタイムは、約10分(気温21℃、相対湿度50%)。
バキバキに割れたマグカップの持ち手の断面にタイトボンドを塗って10分ほど放置します。
2.破損個所に接着
10分後、持ち手を順番に貼り合わせていきます。
はみ出たボンドは、竹串で除去できる範囲で取りました。
(この状態で、しつこくゴシゴシすると、パリッと接着部分が割れてしまいます。)
2回目の持ち手の貼り合わせも無事完了。
そして、最後の持ち手を本体に接着し無事完了。
黄色や青色のシールは、作業中に貼り合わせ面の接合間違い防止のために付けました。
3.乾燥処理
接着完了したマグカップをシリカゲル入りのジップロックに入れて密封し24時間おいておきます。
4.仕上げの金色ペイントを行う直前に持ち手がバラバラに!
翌日、接着部の割れ目線に沿て仕上の金色ペイントを行おうとして、持ち手を持ってマグカップを持ち上げていたら、まさかの持ち手がバラバラ状態になってしまいました。
真ん中の接着部は、かろうじてくっついていますが実用には耐えれない状態でした。
失敗した原因を考えるために、念のためアメリカのタイトボンドの公式サイトを見て、タイトボンド3の仕様を確認しました。
確認したサイトは、こちら。
https://www.titebond.com/community/the-big-three
メーカー説明では、
While Titebond III Ultimate can be used indoors, it is the perfect choice for exterior woodworking,
とだけ書かれているので、用途は木工専用ボンドということです。
次に、今回amazon経由で購入した販売会社に問い合わせてみると、”陶器でも接着はできますが、形状や使い方(接着面が長時間水にさらされる、60℃以上の液体荷さらされる等)によっては接着がとれてしまう場合もあります。”とのこと。
ちなみに、商品に貼り付けられている商品販売元の説明書きにも、使用用途として木工用とだけ書かれていました。
今回作業した季節は11月末なので、室内でも夜中は10℃くらいになるので、乾燥時間が24時間では、短かったのかも?と思ったりしたのですが、メーカー仕様では、華氏47度(約8.3℃)以上で使用できると公式サイトで公表されているので、原因は、接着面の形状なのかも。
原因がいまいちわからないので、今回の修理箇所は食品が直接触れることがない持ち手部分なので、修理に使用する接着剤は、食品衛生法やFDA規格などの認可品にするという条件を外して、ボンドを再選考することにしました。
選考条件は、耐熱性、耐水性に着目して選定した結果、amazonの製品仕様を見比べてアルテコのF-30にしようと思いました。
割れたマグカップの修理用ボンド比較表
タイトボンド3 | F-30 | ハイスーパー5 | |
---|---|---|---|
メーカー | フランクリン | アルテコ | セメダイン |
耐熱性 | 約60℃ | 約80℃ | 約80℃ |
耐水性 | 〇 | ◎ | ◎ |
実用強度に達する時間 |
夏:24時間以上 |
25℃30分 |
冬5℃2時間以上 夏30℃約30分後 |
完全硬化時間 | 夏:24時間以上 冬:48時間以上 |
夏:24時間以上 冬:48時間以上 |
20℃約24時間 |
系統 | 木工用 | エポキシ樹脂系 | エポキシ樹脂系 |
飲食に関する安全規格 | FDA認可 |
食品衛生法 370号規格適合 |
※”食物容器には使用できない。”明記 |
※上表の情報入手元は、タイトボンド3については、米国メーカーのため日本における販売元に電話質問、アルテコについては、メーカーに電話質問、セメダインについては、メーカーwebサイト公表説明及び現品の箱に記載の説明。
念のため、アルテコに電話をして、今回の修理に適用できるかどうかを確認したところ、耐熱温度が80℃なので沸騰したお湯などを入れるマグカップでは、お奨めはできないとのことでした。
ということで、それならばダメ元で自宅にあるセメダインハイスーパー5を使うことにしました。
5.セメダインハイスーパー5で再度接着に挑戦!
失敗した持ち手の接着部分に付いているタイトボンド3をきれいにクリーニングした後、エポキシ樹脂を塗っていきます。
このエポキシ樹脂は、2液混合ボンドなのでエポキシ樹脂剤と硬化剤を同量で混合して使います。
混ぜてから5分後に硬化が始まるので5分前までには持ち手の接合を完了さっせておかないといけません。
上の青色のボンドがエポキシ樹脂剤で下の透明なボンドが硬化剤です。
これらをへらでムラなく混ぜて接合部に素早く塗ります。
接合後は、実用強度が得られる間、接着場所を密着させるためにクランプと呼ばれる器具などでしっかり固定しておきます。
今回の補修個所は、持ち手なので器具で固定できないため、30分間手で押さえてました。
その甲斐あって、今度はしっかりくっ付いてくれました。
今回使ったエポキシ樹脂ボンドは、仕上がりが透明になるのでヒビ跡がリアルに見えてしまいますが、この上に金色塗料を塗っていくので問題はありません。
(エポキシ樹脂ボンドを扱う時は、手袋必須です。手に付いてしまうと、除去がやっかいです。)
念のため、金色の色付けは、翌日にしました。
6.仕上げのpebeoポーセレンの金色塗料でヒビ跡を着色
ポーセレンのチューブタイプの塗料は、ヒビに沿って直接色を塗っていくので筆もいらず便利で扱いやすいです。
このポーセレンの金色ですが、塗った作品を電子レンジや食洗器で使用可能です。
※pebeoの日本販売元ショップに直接電話にて聞きました。
10分くらいで色塗りが完了!
絵具が余裕で残っているので、マグカップの底に妻のネームを入れました。
字体をもっとおしゃれにしたかったのですが、失敗しそうだったので普通のゴシック体風にしました。
この状態で、5日間自然乾燥させた後、150℃のオーブンで35分焼いて完成です。
この150℃35分は、エポキシ樹脂の耐熱温度を大きく上回りますが、焼き付け後自然冷却させて使ってみても、今の所問題は見られませんでした。
まとめ
割れた陶器製のマグカップの持ち手を接合する修理方法では、youtubeなどでタイトボンド3を使われている動画もありましたが、個人的には、タイトボンド3では、失敗に終わりました。
その次にセメダインのハイスーパー5というエポキシ樹脂ボンドは、硬化も早くてしっかりくっついてくれました。
今回は、食品が直接触れる部分の補修ではなかったので、ハイスーパー5をスカイました。
もし今後、食品が直接触れる所の補修をする機会があれば、アルテコのF-30を試してみたいと思います。